いまどきターンテーブルを作ってみる


何十年も前は、レコードプレーヤーの部品を買って組み立てるのは普通だったみたいですが、今は部品単位だとトーンアームくらいしかありません。スピーカー工作みたいに選択肢は多くないけれど自分で作ってみようと思いました。

とりあえず、10万円以下の商品をヨドバシで2台買ってきて全部分解してみました。DJ用1台と大手メーカーの普通のプレーヤーでした。分解するとよくわかりますが、量産設計だし、インジェクションパーツやDDモーター等、これらのパーツを使ったのではちょっと面白くありません。参考になりそうな部品などは図面に残して2台とも元に戻してすぐ中古屋さんに売ってしまいました。もっと安いパーツで工夫した方が面白そうです。

プレーヤー関連の資料はバックナンバーを切り取ってファイルしてあるのですが、瀬川冬樹さんと山中敬三さんの記事に面白いものがありました。1976年ステレオサウンド40号の記事でした。それらはなかなか参考になったわけですが、一番参考にしようと思ったのは、ターンテーブルの軸受けとト-ンアームを機械的に強固に結合する。という項目でした。当時のプレーヤーは特別高価なものでなくてもその部分にお金をかけて作られた商品もあったのが記事からもうかがえます。でも現代の廉価な商品ではたぶん望めないでしょう。方向性は決まったので、それを念頭に使えそうな部品や構成を考えていくことにしました。

店頭で見て使えそうだと思ったので、1万円前後のフルオートプレーヤーを買って分解してみました。量販店で昔から売っている定番品をです。

軽量なダイキャストのプラッター、小型のモーター、ゴムベルト、センタースピンドルを取り出してみると、十分使えそうでした。

スピンドルの強度はそれなりです。でもプラッターが軽いので十分実用になるでしょう。もし、数年後ガタがでてきたらスピンドルごと交換すればいいと割り切ることにしました。ただ、念のためスピンドルを取り付けるアルミベースには、強化スピンドルを自作した場合に備えて取り付けられるように余裕をもたせた設計にすることにします。

トーンアームはDJ用の補修パーツとして販売されていたテクニクスSL1200MK5のアーム部品を使い、インサイドフォースキャンセラーは無し。アームリフターはヨドバシで売っていた山本音響のを使いました。使えるパーツはできるだけ使います。

以下のプレーヤーは数年前に製作したものです。作業写真はスマホで記録していたもので枚数が少なくわかりづらいかもしれません。追加写真を撮りながら説明します。

これを書いているのが2018年8月なので当時簡単に手にはいったパーツも今は買えない物も多いと思います。特にDJ用パーツは難しいでしょう。でも作り方や工夫の仕方は参考になるかもしれません。

 

好きなレコードプレーヤーは昔のリンのソンデックLP12とかアコースティックソリッドやノッティンガム・アナログなどのハンドメイド感?あふれるものが好きなのです。見てるだけでも楽しい感じがするからです。

そこで、普通の四角いプレーヤーと海外製によくある円形プレーヤーを製作することにしました。

まずは円形プレーヤーの方からです。

作図はセンタースピンドルとアームを一体化したアルミブロックを最初に設計し、そのパーツを基準に外装やモーター、スイッチ類、ジャック取り付け位置を決めていきました。作図だけで2~3ヶ月くらいはかかったと思います。

メインパーツを作る

これがセンタースピンドルとアームを一体化させる部品。10ミリのアルミから削り出して仕上げをしているところです。

アームベースを削ったら仕上げとリフターとのクリアランスを確認しているところ。ちなみにリフターはネジで取り付けられるようにビス穴とタップを追加工しています。山本音響のこのパーツは本当にありがたいです。

モーターをキャビネットにビスで固定すると宙ぶらりんでフリーの状態になります。

黒いのは制振用ゴムでモーターに付属していたものです。

仕上げるとこんな感じです。

プラッターの上面にビス留めするアルミパーツの仕上げ、写真は裏面です。

これがプラッターとビス留めされます。

テクニクスのトーンアーム部品はそのままでは取り付けられません。リング状のパーツを作って実用になるようにしました。

仕上げたパーツは細かめのサンドブラストを打ちました。プラッター用のパーツは大きいのでムラがでないように注意して打ちます。

アルマイト処理を終えたパーツ。左上のパーツはRCAジャックとアース端子が付くブロックです。

アームレストはテクニクスの補修パーツ。左はホームセンターで売っている真鍮パイプ。正確に2つ穴を開けてステンレス棒をさし、アームレストの回転防止になっています。パイプのセンターにビスを通し締められるようになっています。

インシュレーター受けを作ります。アルミの部品は、オーディオベーシックという雑誌の付録です。作らなくて済みました。

はまり込むアクリルブロックは削り出して研いでいます。赤い布はスエードでアクリルの裏に貼る滑り止めです。

トーンアームの組み立てに入ります。ミゾやトンネルが掘られていて、配線や金属パーツのアース接続が簡単にできるようになっています。ちょっと見えづらいですが、RCAジャックが付いているアルミの端子板はボディと同一のアーチを描いています。

 

ベース裏。ビスでしっかり留めます。組み立てるとこんな感じです。

上からみるとこうなっています。リフターレバーを降ろすとアルミベースに接触しないようになっています。ヤスリがけが面倒でした。

モーターを組み込みました。手前のレバーは33と45回転の切り替えです。左下の赤いスイッチはスタートストップボタンです。

端子板はRCAジャックで接続できるようにしました。僕は掃除を頻繁にするので、ジャックで取りはずせて移動できないと掃除のとき不便なのです。僕の場合、メンテナンスと掃除のしやすさが設計の一番のポイントです。

 

本体の製作

MDFをマシンカットします。いろいろな工夫から穴やミゾがあります。接着しやすいようにダボで位置が決まります。外径は5ミリくらい大きくしてあります。積層し終わってから外径を削り直し精度を得るためです。天板は突き板をMDFに接着してからカットしています。ネジ部分はすべてナット形状に掘り込んでステンレスナットを埋め込みます。MDFに木ネジでは組み直しやレストアに不安があるからです。

2枚づつが接着しやすいです。全部接着したら数日置き、機械にセットし外径輪郭を削り直します。手間ですが、そこまでする理由はあります。

このプレーヤーは本体とプラッターの外径は同じで設計しました。完成したとき、プラッターと本体ボディが中心からずれていたり輪郭形状が違っていたら成り立たないのです。ちなみに削った外径は突き板と接着剤分マイナスしてあります。

 

輪郭がきれいになり突き板を巻きつけ接着します。実際に接着する前に似たような円形に突き板を接着し、作業のどこが難しいのか確認してあります。友人に頼んで2人がかりで作業しました。Sさんいつもありがとうございます。1人では無理です。

接着剤を塗る前に何度も予行演習し天板とサイドの突き板の接するところは絶対に隙間がでないように完璧に接着します。

カンナをかけて荒削りします。マスキングテープをはがさないようにエアーサンダーで追い込みます。

 

マスキングテープをはがし、突き板を仕上げます。

天面のエッジ部分に0.8Rつけてます。そして3000番まで研いでオイルフィニッシュを繰り返したら、クマモンと記念撮影。

一番下のベースをカリン板から削り出し仕上げます。下部に向かって大きくテーパーをつけています。ビス留め部分はすべてナットを埋め込みます。

オヤイデの小さなインシュレータはネジが切られていてとても使いやすいです。

ACアダプター用のジャック部分はアルミとアクリルで製作しました。

本体とカリンのベースの間に2ミリのアルミプレートをはさんだ構成となっています。

裏には大きな穴あって、ここからドライバーでモータースピードの微調整をします。

プラッターを乗せると完成です。高価な部品とか使ってるわけではないですし、黒いゴムマットではさみしい印象だったので赤いスェードマットを作りました。やっぱり見た目が重要かな。結局、マットは商品にしてしまいましたけど。興味のある方はシルバーハートのページでご覧ください。ちょっと宣伝でした。

マットをめくると窓からスイッチでスピード切り替えができます。普段は見えないところも作り込むと楽しいですね。

これ一台で製作期間は7ヶ月くらい。150時間くらいの作業でした。作図にだいぶ時間をとられたのを覚えています。

作った当時は相当忙しかったはずですが、毎日15分とか30分作業して完成させたんだと思います。あまり覚えてませんけど。

このターンテーブルを作っての感想は、

①アームリフターはなくてもいいかな。

②アームの高さ調整は省略しましたが今度はつける。

③ダストカバーがなかったのでその点は楽でした。

というわけで次は普通のレコードプレーヤーを作っていきます。