フィル・ジョーンズのAE1を作る


「フィル・ジョーンズって知ってる?」

「知らないです」

「昔、アコースティック・エナジーのAE1っていうスピーカーがあってめっちゃ欲しかってん。LS3/5Aの次はAE-1作ってや」

 2018年の忘年会で埼玉のOさんが次のスピーカーが見たいと言ってきました。

「今、1/48でルノーFT17の図面書いてるので当分スピーカーできません。あんなやっかいなスタンド作れませんよ」

「知っとるやん。ゼロから戦車作るなんて1年がかりやろ。飽きてまうで。AE-1は直線構成やから簡単やって。鳴らなくていいから得意のちっちゃいミニチュアで作ろうや。スタンドなんて友達に3Dプリンターで頼んだらええねん」

「作んない人は簡単に言うからなー」

「ルノーFTならモンモデルの持ってるで。1/35のやつ。欲しい?AE-1完成させたらあげるで。モデルカステンのデカールセットもつけて」

「ええっ、ほんとですか?・・・・じゃあ作ります」

AE1の復刻版広告を見ながら作図していきます。

スピーカー本体はこの写真一枚から作っています。以前、秋葉原のレフィーノ&アネーロで実物は見たことあるんですがスタンドは販売してなかったのでステレオサウンドの写真を参考に細部は想像で作図しています。

スケールは1/8手のひらサイズで製作。

AEロゴは0.2ミリのエンドミルで彫刻できるように形状を調整してあります。

ツイーターのパーツ構成はこうなっています。ダミーネジの直径は1ミリ。ベースを黒ABS板から削りスリットを入れています。

パンチングのジグを削り、クランプして真鍮ネットを絞ります。ダミービスはハイキューパーツのCPリベットでいつも使っているものです。このメーカーは使えるディティールアップパーツがそろっています。

本物のユニットの材質が違う部分でパーツ分割しています。こういうのは筆塗りは向いてません。パーツごとにツヤの感じをエアブラシで調整しなければならないので。小さくて仕上げづらいのでアクリルから削り出しました。塗装クリアランスは最小限で。だいたい0.075ミリくらいです。

本体をABSブロックから削ります。裏の端子の上にラベルがあるのですが正確に位置決めするのとラベルの端面を見せないように0.4ミリポケットしてあります。模型的な処理ですけど。

 スタンドとビス留めできるよう底面にM1.2タップを切ります。ユニットパーツとの塗装クリアランスを確認しながら水砥ぎしてサフ吹きします。

このやっかいな形状のスタンドのシャフトのパーツを友達のプロモデラー川崎のIさんが3Dプリンターで作ってくれました。忙しい年末にIさんありがとうございました。

一本は3Dプリンターで、もう一本は自分で削って作ってみることにしました。8ミリのABS棒を26.1度づつ回転させ溝を切ります。フィンは0.5ミリのプラ板で削っています。ガタつかないようにクリアランスは0.03ミリです。

フィンをペーパーで仕上げてからシャフトに差込み、タミヤの速乾接着剤を流し込みます。この接着剤は、ほんとに使い易いです。パーツを溶かしすぎないし。

端面を水平に仕上げ、太いフィンを一箇所長く飛び出させ、ビス留めするベースとの回転ストッパーになっています。ベースにはAEロゴを彫刻しました。

スタンドを作ってみるとちょっと短く感じます。3Dデータではそう思わなかったのですが。結局5ミリ延長して作図し直し、2本とも全部削り出して作り直しました。何本作れば気が済むのでしょうか。右の写真が2本とも修正したあとです。

米粒みたいな端子はアクリル板から削り出し塗装します。金メッキパーツは真鍮棒で製作。

フロントバッフルのバッジを黒アクリルから凸形状で削り、シルバー塗装して文字を浮かび上がらせます。裏側のステッカーもイラストレーターソフトで作成。そのまま貼ると塗装面の凹凸を拾ってステッカー表面がきれいになりません。写真の黒い板はアクリル板でこれに貼りつけて端面を#800のペーパーで仕上げて大きさ、角Rの精度を出し、スピーカー本体に組み付けます。

各パーツを塗装していきます。右写真のウーファーなどは本物同様にパーツごとに色、質感を変えてあります。例えば、ゴム部はジャーマングレー半ツヤ、アルミコーン部はメタリック色を使うとサイズが小さいため、わざとらしくなります。アクリルの下地をコンパウンドでフィニッシュしてわずかに艶を落としたクリアーを薄くコートしてメタリック表現としました。フェイズプラグは黒アクリル砥ぎ出しで無塗装です。

塗装が終わってアッセン直前。ここまでくると完成するかも。キズつけないように手袋をはめて作業します。塗装面を素手で触ることはしません。パーツはルーペで確認しながら組み立てていきます。ほこりなどの不備があれば塗装に戻ります。

本体とスタンドはM1.2ビス留めです。組み立ては簡単に設計してあります。バスレフポートの底の部分は色が塗れないので塗装した別パーツを落とし込みます。

フロントのAEバッジは落とし込みです。これで位置が正確に決まります。クリアランスも最小で。背面のステッカーも同様です。ステッカー面は背面から0.05ミリ低くしてあります。英国の国旗がカラフルで黒一色の本体のいいアクセントになりました。完成までもう少し。

75時間で完成  2019年4月20日

完成品を見に埼玉のOさんが工房にやって来ました。

「四角いスピーカーやから作るの簡単やったやろ」

「スタンドは作り直したので時間がかかったけど、あとは問題なく作れました。楽しんでるうちに完成したし。早く戦車のプラモくださいよ。」

「そうあわてるなって。1/35 モンモデルのルノーFT17とモデルカステンのデカールセットやで。おまけでモデルカステンのコトブキ飛行隊のデカールセットも付けたるわ。ファインモールドの隼、作ってんのやろ」

「ありがとうございま~す。1/48の隼作って次回の作品と並べたいんですよね。」

「ええな~これ(次回の作品を手に取って)、完成したらくれへん?」

「だめです」

「コトブキ飛行隊が終わったら、リンのソンデックLP12やで。」

そう言ってOさんは埼玉に帰っていきました。